「中途採用の募集を行っても、理想に近い人材がなかなか集まらない…」「希望に近い人数の母集団は形成できても、そこから採用につながる人材がほとんどいない…」上記のようなお悩みを抱える採用担当者は少なくありません。ただ単に応募者数(自社の求人に興味や関心を持つ求職者を集め、整った状態を形づくる活動)を増やし、大きな母集団を形成するだけでは採用にまで至らない傾向があり、しっかり「ターゲット」と「ペルソナ」を設定することが重要になります。この「ターゲット」と「ペルソナ」という言葉、聞いたことはあってもそれぞれの意味を正しく理解し、使い分けられている人は意外と少ないものです。本記事では、「ターゲット」と「ペルソナ」の違いと、それぞれの設定方法を分かりやすく紹介します。読み進める前に前提知識として「採用要件」についても把握しておきましょう。詳細はこちらの記事でまとめています。採用要件とは?人材の要件定義をする必要性1.ターゲットとペルソナの違いターゲットとペルソナの違いは、その詳細さにあります。ターゲット:何かしらの属性でグルーピングした人物群ペルソナ:求職者の志向性やキャリアにおける課題などより詳細に落とし込んだ人物像2.ターゲットの設定方法ターゲットは、データや数字、証拠などの目に見える定量面の情報を集めたものを指します。候補者の定量面に着目した情報をリストアップして「これらを満たしていれば書類選考合格、スカウト送信の対象になる」という要件を決め、ターゲットリストを作成します。 例年齢:25 〜 29歳3年以上のインターネット、スマートフォン向けシステムの開発経験Web開発(サーバーサイドエンジニア)の実務経験2年以上PHP、Javaいずれかの使用経験1年以上現年収:600万円未満転職回数:3回以内 など 。求める人材、必要な人材は企業によって異なります。一般的にいわれる「優秀な人材」を採用しても、自社にマッチするとは限りません。 仮に高いスキルを持つ人材を採用したところで、そのスキルを活かせる仕事がない、社風と合わないといったミスマッチが起きると、結局は活躍できず離職にもつながります。 ここでは、自社に最適な採用要件の作り方を2パターン紹介しますが、どちらかの手法が優れているというわけではありません。 求める人材の基準を、未来から考えるか、過去〜現在から考えるかという「視点」の違いです。 理想としては、両方のバランスを考慮しつつ、ターゲットを決められると良いです。2.1 未来の事業や組織から逆算して定義する(演繹的アプローチ)ターゲットを定義する方法として、一般的に用いられる手法が演繹的アプローチです。 今後の「ありたい姿」から必要な人材を検討する手法は非常に合理的といえます。 演繹的アプローチは次の流れで進めます。2.1.1 担当者にヒアリング今回獲得したい人材について、現場責任者や該当部署の担当者にヒアリングを行います。 本音かつ具体的に洗い出すことが大切です。現場感覚をきちんと理解し、全員を巻き込む気持ちで臨んでください。任せたい業務内容・ミッション期待値どのような人と働きたいかAs-Is・To-Be(現状→理想の状況)2.1.2 求める人材の基準をリストアップ求める人物像の条件について、以下のように項目を分けてリストアップします。スキル/経験人柄(価値観、仕事への姿勢)条件(勤務場所、勤務時間、給与等)ポイントは抽象的な言葉を使わず、具体的に「どのような仕事を任せたいか」を明確にしましょう。<スキル/経験> どのような専門的なスキルや経験が必要かを考えます。経験年数や資格といった経歴の他に、コミュニケーション能力やマネジメントスキルなど、個人の能力もこの項目に含まれます。<人柄> 応募者の価値観と自社の社風や求めている人柄と合っているか。応募者の価値観によって「仕事内容、働きやすさ、待遇のどれを重視するか」が決まるため、その合致度によって、入社後の勤務姿勢や意欲にも影響が出てきます。また性格はコミュニケーション能力やリーダシップの有無を判断する材料にもなります。<条件>勤務場所、勤務時間、給与といった条件面での折り合いがつかなければ、スキルや熱意があっても採用は困難です。自社の状況や相場との照らし合わせが必要になります。2.1.3 求める基準に優先順位をつける(MUST・WANT・NEGATIVE)求める人材の基準をリストアップしたら、その中で優先順位(MUST/WANT)をつけていきます。 すべての基準を満たす完璧な応募者はいません。理想を追い求めず、以下の3つに振り分けて考えましょう。MUST(必須条件):絶対に欠かせない条件WANT(希望条件):あると望ましい条件NEGATIVE(不要条件):評価しない条件、もしくは避けたい条件「このような知識やスキルは不要」「こういう価値観の人には入社してほしくない」といった基準は、NEGATIVE(不要条件)として明確にしておきましょう。そうすることで、より自社に最適な採用要件が定義できます。2.2 既に活躍している人材から定義する(帰納的アプローチ)ターゲットを定義するには「現在自社で活躍している社員をベースにして基準を定める」という方法も有効です。すでに活躍している人を分析し、どんな条件であれば自社に合うのかを洗い出します。ここで大事なのは、活躍している人がなぜ活躍できているのか、その要因を紐解くことです。資格・スキル・経験だけではなく、その人のどのような能力・行動特性が仕事に影響を与えているのかを、正しく把握することが求められます。2.2.1 活躍人材のリストアップ&経歴の洗い出しまずは自社で活躍している社員をリストアップします。ポイントは以下の2つです。現場責任者・最終面接者にリストアップいただく。定量的に測れる項目もしくは客観的事実にもとづく項目を指標にする(主観の排除)2.2.2 求める人材の基準をリストアップ活躍人材のキャリアを洗い出します。 可能であれば活躍人材が転職活動していたときのレジュメを参考にしつつ、次のような項目でヒアリングし深掘りしていきましょう。前職・現職の役割(業種・職種・役職・在籍していたプロジェクト)前職・現職の実績(目標達成率、組織内順位、売上実績)入社・退職理由(入社した理由、前職を退職した理由)現在のスキル・仕事(保有するスキル、現在の業務内容や在籍プロジェクト2.2.3 求める基準に優先順位をつける(MUST・WANT・NEGATIVE)演繹的アプローチと同様、求める基準の優先順位付けを行います。 活躍人材をもとに実施するため、整理しやすいかと思います。3 ターゲットを抜けもれなく(MECEに)作る方法1つの求人に対して1ターゲットのみを設定するのではターゲットの範囲が狭くなり、本来であれば対象となり得る人材を取りこぼす可能性があります。 そのため、1つの求人に対して複数ターゲットをMECEに洗い出すことが必要です。| 例)「Rubyリードエンジニア」求人のターゲットを洗い出したい場合 ⇛求めたいRuby開発経験年数を5年とする。ターゲット①20代前半(20~24) Ruby開発経験3年以上ターゲット②20代後半(25~29)Ruby開発経験3年以上+技術選定経験※もし求めたい開発経験年数に到達していなくても、その他にテックリード経験があれば書類通すなど決めておく。ターゲット③30代前半(30~34) Ruby開発経験5年以上ターゲット④30代後半(35~39) Ruby開発経験5年以上ターゲット⑤40代前半(40~44)Ruby開発経験5年以上+テックリード経験※40代前半でRuby開発経験のみだと弱いため、その他にAWS,GCP経験があれば書類通すなど決めておく。4.ペルソナの設定方法ターゲットを設定したら、ペルソナの設定を行います。「ターゲットを決めるだけでは不十分なの?」と疑問に思う方もいるかもしれません。ペルソナを設定することには、大きく分けて以下2つのメリットがあります。① 候補者の「スクリーニング」を適正に行うことができる② 候補者を惹きつける「アトラクト」を行うことができる「スクリーニング」とは自社にマッチしているかどうか見極めることです。 ペルソナ設定をしっかりと行っていない場合、下記のような問題が発生してしまいます。面接担当ごとの採用基準が異なり、進捗が不安定になる入社後のミスマッチが起こりやすくなる など。一方、「アトラクト」とは、候補者に興味を持ってもらえるような働きかけです。 具体的な人物像が定まっているので、どういったことに興味を持つかをある程度予測することができます。もし、ペルソナ設定を行っていなければどの採用媒体を活用してよいかわからないターゲット外からの応募が多くなる などの問題が発生します。このようにペルソナを設定することで、採用活動全体の指標が定まり、より効率的にかつ円滑に進めることができます。では、ペルソナを設定する手順を見ていきましょう。4.1 採用ターゲットを明確にする上記 2.ターゲットの設定方法 を参照ください。4.2 イメージする人物像の条件を書き出すペルソナを設定する際の土台となる「採用したい人物の条件」が必要です。ターゲットが明確になれば、イメージする人物像の条件も見えてくるでしょう。思いつく条件を全て書き出してください。そして、書き出した条件から連想できるストーリーを組み立てるように、人物像をまとめます。書き出した条件が「経理」「経験者」「有資格者」であれば、求める人材像は「経理事務として3年以上の経験があり、経理に関する資格も取得しているが給与に反映されないため転職を検討している既婚男性」という具合です。そこから「どこに住んでいるのか」「趣味や悩みがあるのか」など、その人物をイメージできる仮のペルソナを考えていきます。————————————————————————————————ペルソナ設計に必要な最低限の要素を紹介します。 自社の求める人物特性に応じて固有の項目を設定するのがオススメです。項目詳細大学・専攻大学や文系/理系ごとに志向が分かれる。特に専門知識が必要な場合は必須の要素例:G-March、理工学部 数理情報学科職歴・キャリアサマリー経験やバックグラウンドを具体化する例:新卒にSaaS系ベンチャーに入社。インサイドセールスから経験し、カスタマーサクセス持っているコンピテンシー行動特性や定性要素例:現状認識能力、ビジョン創出力、達成行動力、組織想定されるキャリア課題就職・転職する理由、現状の課題点例:自社プロダクトのセールスやCSをベースに経験しているため、課題解決がプロダクトに依存してしまう。次のキャリアに求めるWill転職先に求める環境、事業領域を明確にする例:プロダクトを持ちつつ、プロフェッショナルサービスに強いバーティカルSaaSもしくはコンサルメインのITコンサル企業4.3 仮のペルソナを現場のイメージとすり合わせる求める人物像の要件を絞り込み、仮のペルソナを設定することができたら、現場に確認してもらい、認識にズレがないかチェックしましょう。中途採用においては、社内の同じ業務を行っている社員からのヒアリングを行うことも必要です。ただし、経営層が考えるペルソナと現場が考えるペルソナのイメージが異なり、どちらの要望も全て取り入れると、非現実的なペルソナになる可能性もあります。 経営層と現場の意見を取り入れながら「必須の条件」「あると望ましい条件」「不要な条件」のように優先順位を分けていくと、現実的なペルソナを設定していくことができます。4.4 現状の転職市場に合わせて要件を絞り込む設定した仮のペルソナを確実なものにするためには、 経営層や現場とすり合わせを行った後、現状の転職市場に合わせて要件を絞り込まなければなりません。 仮のペルソナが現場の転職市場に全く合ってないものだと、求人に対しての応募は見込めないでしょう。そのため、現場の転職市場を踏まえた上で、仮のペルソナの見直しを行ってください。 例えば、転職市場において経験者が少なく応募が見込めないのであれば、仮のペルソナ設定から「経験者」という条件を外すのもありです。 自社からの要望を伝えるだけではなく、転職者の状況を見極めた上でペルソナ設定を行うことにより納得のいく採用に繋がりやすくなります。5. ペルソナを設定する際の3つの注意点ペルソナはターゲットより詳細に設定する分、注意するべきポイントが増えます。ここでは注意点として、以下3つのポイントを紹介します。主観だけでつくらない定期的な見直しが必要細かく設定しすぎない5.1 主観だけでつくらないペルソナを設定するときは、第三者の意見や調査データを参照することがおすすめです。人事部や採用担当者のみの「このような人が活躍してくれるだろう」という予測で採用要件を作成してしまうと、現場の方と意見が異なり入社後にミスマッチが起こりやすくなります。 また、採用市場調査を行っていない場合、採用要件を満たした人物が市場に存在しない、または希少な人物で採用に繋がらない、採用計画を達成できないという可能性があります。実際に現場で活躍している社員へのアンケートや競合社員、求職者の傾向など、データを根拠にすることで入社してくれる人材と親和性の高い基準を作成することが可能です。 ペルソナはあくまでも「社内で共通認識ができる理想の採用人物像」くらいに考えましょう。5.2 定期的な見直しが必要ペルソナは一度作り上げたらそれで終わりではありません。 募集ポジションや現場の状況によって、求められる条件は変化します。 また、候補者の傾向も変化するため、それに伴いペルソナも変更する必要があります。5.3 細かく設定しすぎないペルソナを細かく設計しすぎた場合、該当する人が少なく思うような人材が見つからなかったり、どのような人を採用すればいいのかわからなくなったりします。そのため、ペルソナを細かく設定しすぎないよう注意しましょう。細かすぎるペルソナ設定の例としては以下のようなものがあります。iPhoneを使用している休日は読書をしているiPhone使用や休日の過ごし方はあまり業務とは関係のない内容です。 iPhoneを使用していないことや休日に読書をしていないことにより不採用にするのは効率的ではありません。 大切なのはどのような人物をイメージするかということであり、ペルソナ設計自体が目的となってしまってはいけません。 自社に必要な人物をイメージするにあたり、最低限どのような条件が必要なのかということを検討した上でペルソナ設定を行いましょう。6. 本記事のポイント以下に本記事のポイントをまとめます。ターゲットとペルソナの違いターゲット:何かしらの属性でグルーピングした人物群ペルソナ:求職者の志向性やキャリアにおける課題などより詳細に落とし込んだ人物像ターゲットの設定方法未来の事業や組織から逆算して定義する(演繹的アプローチ)既に活躍している人材から定義する(帰納的アプローチ)ペルソナの設定方法採用ターゲットを明確にするイメージする人物像の条件を書き出す仮のペルソナを現場のイメージとすり合わせる現状の転職市場に合わせて要件を絞り込む希望に近い人材の採用を行うならば、本記事を参考にターゲットとペルソナ設定をしっかり行いましょう。