経営において、「採用」はあくまで人材確保・配置における手段です。 事業戦略・計画があり、それを達成するためにどういう能力・人材が必要かを考え、その人材を確保するか(採用・人材異動・育成など)を考えた上で、ようやく採用計画や採用戦略に落としていきます。そこで、本記事では採用計画・戦略の立て方や流れについて、一般的な流れを紹介します。1.事業戦略・採用戦略とはまずは「事業戦略」と「採用戦略」について、それぞれ解説していきます。1.1事業戦略とは事業戦略とは、事業として向かう方向性と進み方を策定することです。 事業戦略は、事業の目的を達成するために必要な事項と、自社の経営方針に関する事項を盛り込んだものになっており、事業ごとに戦略を策定して目標やプロセスを明確にしていきます。 事業戦略はできる限り具体的な目標である必要があり、以下のようなことを検討した上で方針を示します。▼検討すべきこと事業が向かう方向性の検討• 市場、環境、競合他社の存在• 消費者の動向 • 流通の変化 進み方の検討• 従業員数や人材のスキル• 生産設備 • 資金力1.1.1事業戦略を策定する理由事業戦略を策定する理由は、最短で事業成長を目指すためです。 もし具体的な目標や方針を明確にしていない場合、当初の方針とは異なる意思決定がなされ、うまく進行せず事業が成長しない可能性があります。 それを避けるために事業戦略は重要な役割を果たします。1.2採用戦略とは採用戦略とは、企業が「求める人材を採用するために立てる戦略」のことです。 具体的には以下のようなことを検討していきます。(詳細は後述します。)▼採用戦略で検討すべきこと市場と比較した自社の立ち位置の整理・求職者の動向 ・採用市場の動向 ・自社における過去の採用活動の結果 ・自社の採用課題 ・自社の魅力や弱点 ・競合他社の採用状況確認ターゲットの整理・具体化・人材要件(スキル・マインドセット)・条件(年齢・年収など)・業務内容や役割・期待値 ・ペルソナと訴求ポイントの整理採用チャネルの選定・ダイレクトリクルーティング ・エージェント ・リファラル ・オウンドメディア・SNS 採用フロー・カジュアル面談有無 ・選考フローと担当者の決定1.2.1採用戦略を策定する理由採用戦略を策定する理由は、主に以下の2点です。質の良い母集団の形成を行うため市場の動向を捉えた上でターゲットに対して自社の魅力を伝えていくことで、欲しい人材からの応募が集まりやすくなります。無駄な採用コストを抑えることができるため戦略を立てず闇雲にアプローチしてもコストがかさむだけで採用には繋がりません。 ターゲットがどこにいるのかを想定した上で採用チャネルを選定し、効率よくコストを投下することで採用単価を抑えることができるため、事前に戦略を策定することはとても重要です。2. 採用戦略を立てるための具体的な流れ採用戦略を立てるための流れは以下です。1つずつ具体的に説明していきます。2.1 事業戦略・計画達成に必要な要素(機能・人材など)が何かを検討するまず、事業計画を達成するためにどういう要素が必要なのかを考えます。 ここでいう要素とは、組織的な機能や人材のことです。具体的には以下のような検討をします。▼ケース1(例:IT系スタートアップ)会社イメージ・創業3年目のスタートアップ ・toC向けのマッチングアプリ ・従業員数は20名程度事業戦略の概要(ここではざっくりした方針のみ記載)・コンテンツの強化 →競合他社と差別化していくために機能を充実させていく方針 ・ブランディング、マーケティング強化でユーザー獲得 →インスタなどのSNS広告、Tik tokなどの広告以外もオウンドメディアの立ち上 げで関連記事を掲載しSEOから導線を引く、アフェリエイトなども設計・管理していくなど、大幅に露出を増やしていく方針。必要な要素 ※ここを検討します・コンテンツ機能 ・他社にはない機能、より使いやすい機能、マッチングしやすい仕組みなどを 考える機能 ・より多くのユーザーが使うアプリになっても耐えられる状態にする機能 ・開発機能・ブランディング、マーケティング機能 ・ブランディング機能 ・マーケティング戦略立案機能 ・Webマーケティング運用機能 ・オウンドメディア立ち上げ、アフィリエイト管理、運用機能必要な人材 ※ここを検討します企画人材(ミドル層〜ハイクラス層)が必要 ・コンテンツ機能 ・コンテンツ企画人材(事業開発など) ・CTOや開発組織をマネジメントできる人材 ・エンジニアなどの開発人材 ・ブランディング、マーケティング機能 ・CMOなど、マーケティング戦略立案人材 ・ブランディング強化人材 ・マーケティング運用人材 ・メディア編集長など▼ケース2(例:IT系大手上場企業)会社イメージ・創業30年目 ・受託開発企業 ・上場企業 ・従業員数500名事業戦略の概要 (ここではざっくりした方針のみ記載)・事業の成長スピードは例年どおりで、特段大きな変換期ではない ・売上は前年度の110%程度を目指していく ・事業を伸ばすにはエンジニア人数が胆になるため、エンジニアの育成・採用には力を入れていく ・平均年齢が上がってきたので若手の育成を強化していきたい必要な要素 ※ここを検討します・安定したエンジニア、デザイナーなどの開発機能 ・安定した案件獲得機能・若手の育成機能必要な人材 ※ここを検討します事業推進人材(ジュニア〜ミドル層)が必要 ・エンジニア、デザイナーなどのプロダクト人材 ・ITコンサルタント人材・新卒、第二新卒などの若手人材2.2 必要な人材を確保する方法を検討する必要な要素を検討し、必要な人材を明確にしたあとは、その人材を確保する方法を検討していきます。具体的には以下のような手段があり、それぞれのメリットデメリットを検討しながらどの方法が適切か判断していきます。必要な人材を獲得する方法メリットデメリット採用する必要な人材要件(能力・性格)に合わせて即戦力人材を確保できる。・採用に時間がかかりスピード感が落ちる。・面接で見極められない場合はミスマッチがありえる。配置転換する(異動)すぐに人材の確保が可能。・必要な要件を満たしていない可能性がある。・異動元の後進育成が進んでいないと難しい。育成する・カルチャーフィットが高い。・社内のキャリアアップの事例になる。・時間がかかるためスピード感が落ちる。・しばらくフォローが必要のため、上司のリソースがかかる。外部リソースを活用する・採用に強みをもつRPOなどに委託すれば即戦力でプロのノウハウを活かせる。・スピード感を落とさず遂行できる。・管理、マネジメントに工数がかかる。・人件費よりも必要が高くなるケースが多い。2.3 採用計画を立てる必要な人材を確保する方法を検討した結果、「採用」することを選択した場合は、どのポジションをどのレイヤーでいつまでに採用していくのか、具体的な採用計画を立てます。 一般的には、以下のような項目を盛り込んで計画を立てていきます。 ※あくまで事例のため、ここではイメージができていればそれでOKです。項目詳細配属部署部署ごとに人件費や採用費を割り出すため、記載します。採用ポジションどのポジションを募集するか記載します。採用時期いつまでに入社してほしいかを記載します。採用人数採用人数を記載します。ただし、正しく採用費を見積もるために、1人ずつ表記することが多い印象です。想定グレードどのグレードで採用するかを記載します。想定年収どの年収で採用するか、上限を記載します。高すぎたり低すぎる場合は予算がブレるため、適度な年収を記載します。採用チャネルどのチャネルから採用できそうか想定を記載します。(あくまで目安でOKです)※採用チャネルの選定については後述するため、ここでは項目の認識のみでOKです。採用予算想定した採用チャネルごとに設定されている成果報酬をかけて、採用予算を割り出します。※採用予算については後述するため、ここでは項目の認識のみでOKです。▼採用計画表のイメージ2.4 採用戦略を立てる具体的な採用計画が決まり次第、冒頭で説明した「採用戦略」を立てていきます。 採用ポジションやレイヤー(ジュニア層・ミドル層・ハイクラス層)によって、ターゲットの希少性が変わり母集団形成の難易度が変わってくるため、必要な人材に応じてどのような戦略で採用していくのかを検討していきます。2.4.1 採用ターゲットを具体化するまずは、どういう人材を採用するのか、ターゲットを具体化していきます。 具体的には、以下のようなことを明確にしていきます。業務内容や期待値スキルやマインドセット条件(年齢、年収など)ターゲット設定の具体的な方法は、こちらの記事で解説しています。【母集団形成】採用におけるターゲットとペルソナの違いは?それぞれの設定方法を紹介2.4.2 ペルソナを設定する次にターゲットを元に、ペルソナを設定します。ペルソナとは採用したい人物像のことで、採用やマーケティングでよく使われる用語です。 実際にその人物が実在しているかのように、年齢、性別、居住地、職業、役職、年収、趣味、特技、価値観、家族構成、生い立ち、休日の過ごし方、ライフスタイルなどリアリティのある詳細な情報を設定していきます。特に採用では以下のような情報が重要になります。現職の不満や悩み転職軸(次の転職先に何を求めるか)将来のキャリアイメージ(どうなりたいか)2.4.3 採用チャネルの選定ターゲット・ペルソナが具体化できたら、そのターゲットがどのチャネル(求人媒体やエージェントなどの手法)に多く存在するかを検討し、採用チャネルを選定していきます。採用チャネルの特徴やそれぞれのメリット・デメリットはこちらの記事で紹介しています。中途採用の主な手法とそれぞれのメリット・デメリット2.4.4 採用予算の検討採用予算とは、名前のとおり「採用にかかる予算」のことです。 従業員の給与などの毎月のコストは「人件費」と総称しますので、ここでいう採用予算とは別のものになります。あくまで、採用にかかる成果報酬や媒体掲載費用などを見積もったものを総称して「採用予算」と呼んでいます。採用予算については、基本的には事業計画作成段階でざっくりと盛り込まれているケースがほとんどです。そのため、ここでは、当初の採用予算と比較して、上振れはないかなどの確認を行っていきます。具体的には以下のような流れで確認します。 (尚、採用計画作成時にある程度採用チャネルを想定し、予算を作成している場合はこの作業は不要です。)採用チャネルから逆算した予算の設定各採用ポジションごとに採用チャネルを検討していきます。 そのチャネルごとに成果報酬などが決まっているため、その条件に合わせて採用予算を逆算します。当初の採用予算と比較して、上振れていないか確認するもし上振れている場合などは事前に修正案を上げておくと、採用後に「予算が足りない」といった問題が起きなくて済みます。2.4.5 人事組織体制、選考フローの検討人事の組織体制をどうするか、選考フローをどうするかなども重要な戦略の1つです。 それぞれ何をする必要があるか、説明していきます。人事組織体制の検討 誰がどういう役割分担でやっていくのかなど、人事組織内の体制を検討する必要があります。 例えば、「ダイレクトリクルーティングを強化する」といっても、専任の担当がいなかったり、運用リソースがない場合は強化することはできません。 そのため、どのような採用チャネルで採用していくか、大枠の方針が確定した段階で人事の組織体制を見直していきます。 ここでは例として、ケースごとに見直すポイントを記載しておきます。ケース見直すべきポイントエージェントでの採用エージェント管理体制が必要。エージェントに採用ポジションの説明やターゲットのすり合わせなどを行う必要があるため、その採用ポジションを担当するリクルーターが窓口になる方が効率が良い。ダイレクトリクルーティングでの採用応募獲得のため、求人の作成やスカウトの送信が必要。運用にかなり時間がかかるため、以下のどちらかを検討した方が良い。・社内で運用専任の担当を置く。・RPOや業務委託などで外注する。オウンドメディアやSNSでの採用メディア運用の場合は以下の専任が必要。・メディア編集長・ライター(外注でも良い)また、SNSなどで採用情報を発信したりDMをする場合は、その担当が必要。(※業務量は少ないため他の役割と兼任するイメージ)選考フローの検討近年、採用市場では優秀な人材の取り合いになっているため、選考フローをどうするかという点も非常に重要なポイントとなってきます。 そこで、選考フローについて、以下の2点を決めていく必要があります。1.選考フローを決定する各選考と役割は以下表のとおりです。募集ポジションごとに設計していきます。 特に近年の採用市場では求人数の増加により優秀な人材ほど複数者から内定をもらう場合も多く、カジュアル面談などでアトラクト(魅力づけ)することは必須になってきています。 選考においても、面談の機会など求職者に寄り添う機会を多くとることが重要になります。選考フロー概要目的カジュアル面談応募意思は問わず、まずは事業や戦略、期待値について説明し、アトラクトをする場。アトラクト面接求職者の経験などをヒアリングし、自社にマッチするかどうか見極めつつ、採用したい人材であればアトラクトをする場。一次面接、二次面接、最終面接など、回数は会社によるものの、4回以上の面接はスピード感が落ちるため他社に流れる可能性があり、おすすめしない。アトラクト見極めオファー面談内定通知の場合、通知条件や改めて本人への期待値を伝え、クロージングする場。アトラクトクロージング場合によってはクロージングのために会食などを実施してもいいと思います。 このあたりは候補者の状況によって決定するのが良いでしょう。2.選考対応者の決定選考フローと合わせて、誰がどの面談・選考を担当するかを決定します。 基本的には組織の責任者や役員などが対応することが多いものの、求職者の志向に近い社員が面談を担当するケースなどもあります。求職者にとって「どんな人が働いているのか」はとても重要な要素です。アトラクトできなかったり、コミュニケーションに問題があるメンバーが対応するとそれだけで意向が下がって辞退になるため、選考対応者にはコミュニケーション上の懸念がない方を選定しましょう。 面接に慣れていない方や辞退率が高い方に対しては、しっかりと面接官としてのトレーニングを実施しましょう。またハイレイヤーの場合はカジュアル面談で事業責任者クラスや役員、代表が対応する方がアトラクトに繋がります。採用難易度が高いポジションは、積極的に役職者に協力してもらいましょう。2.4.6 KPIの設計採用計画=人事の目標ではあるものの、それを達成するための道筋を定量化しておく必要があります。 そこで、人事の行動目標を設計するために、以下の流れで検討してきます。選考期間から逆算した内定承諾日ベースの目標設計 採用計画は入社日ベースで立てているものの、退職交渉などでずれが生じるため、人事の目標としては内定承諾日ベースで追った方が管理はしやすいです。 そのため、およそ内定承諾後〜入社までの期間を2ヶ月間とし、採用計画から2ヶ月前倒した内定承諾日ベースの計画を立てます。通過率など、歩留まりを定量化して逆算した定量目標の設計 内定承諾日ベースの計画に、内定率、選考通過率(書類〜面接)などをかけて応募数の目標を立てていきます。 更に、ダイレクトリクルーティングを活用する場合は返信率などをかけてスカウト送信数の目標も決定していきます。実際には応募〜内定承諾まで1〜2ヶ月程度期間が空くため、スカウト目標などは内定承諾目標から2ヶ月前倒しで設計していきます。 (2ヶ月前のスカウト数が当月の内定承諾につながるイメージ)2.4.7 その他検討すべきこと2-4-6までの内容が一般的な採用戦略策定の流れですが、他にも以下のような検討も必要です。ATS(採用管理ツール)の検討 選考数が増えて来た場合、進捗管理の漏れをなくしたり、面接官への共有の手間を省くために採用管理ツールの導入を検討することをおすすめします。日程調整ツールの検討 日程調整は面倒が多く、時間がかかるため、Googleカレンダーと同期できる日程調整ツールを使用することをおすすめします。3. 採用計画・戦略をしっかり立てて優秀な人材を確保しよう優秀な人材を獲得するためには、戦略的な採用プロセスを構築し、計画的なアプローチが求められます。採用計画を立てる際には、組織の目標やニーズに基づき、適切な戦略を選択しましょう。組織が競争力を持ち、成長を遂げるためには、優れた人材の確保と定着が欠かせません。採用計画・戦略の立て方と流れを理解し、組織の人材戦略を強化しましょう。